タイ語翻訳者がのぞいたタイランド

タイ在住のタイ語翻訳者がのぞいたアメージングタイランド、タイの楽しいニュースをお届け

2009年12月01日(火)

最後の課題 [スコータイ大学]

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最後の課題

いよいよ最終日。今日の午後には自宅に戻れる。
でもその前に閉会式がある。そしてさらにその前に最後の課題がある。

それは「倫理」の授業。

スコータイ大学に代々伝わる倫理に関する薄いテキストをクラス全員で少しずつ読み上げていく、というものだった。

もともとが教員を養成する大学だったことから、このテキストは教員や公務員の心構えを説いているものだった。
でもこの教えは他の職業にも十分通用するので、ずっと使い続けているそうだ。

このテキストは、5日間の課題の中で唯一、自宅への持ち帰りを許されたものだった。

「5日間続いた怒濤の研修生活も、今日でいよいよ終わるのだな」そう思いながら倫理のテキストを読んでいくと、なんだかしみじみ心に滲みて、素直な気持ちで読むことが出来た。

私にはまったくなじみのない仏教用語が多かったけれど、せっかくなのでここに出てくる言葉は常識として覚えてしまおうと心に誓った。

テキストを読み終わった後、先生が話しをしてくれた。
そういえば、いつも課題に夢中で取り組んでいたので、クラス全員が揃って先生の話をゆっくり聞くのも、これがはじめて。

先生は、会計士として働いていた若者の時代から、現在のスコータイ大学助教授になるまでの経験を語ってくれた。
「あなた達にぜひ覚えておいてもらいたいのは、ときどき立ち止まって考えることです。毎日の生活が忙しいと、つい考えることを忘れてしまいます。でも、半年に一度、または一年に一度、自分の人生にとって大切なことは何なのか、じっくりと考える時間を持って下さい。」

「会計の役割はこれからもますます大きくなっていくことでしょう。会計は、これまでのように、会社の役員に数字を提供するだけの部門ではありません。会社の運営に大きく関わっていく部門として、その存在感を増していくことでしょう」

「学ぶことに終わりはありませんよ。ここを卒業して会計学士になったとしても、それがゴールではありません。新しいことを学ぶ姿勢を持ち続けてください。会計の資格だけでは、会計の仕事しかできません。会計以外にもう一つや二つの専門があれば、あなた達の選択肢はどんどん広がっていきます」

「今、タイの大学では優秀な会計の先生が不足しています。興味がある人はぜひ、先生になることも考えてみてください。とてもやりがいのある仕事ですよ」

最後に先生が「それでは後ほど講堂に集合してくださいね」と言ったとき、クラスの代表が立ち上がった。
「先生、ちょっとお時間をよろしいでしょうか」

前日の昼休みに、みんなで集めたお金を持って先生へのプレゼントを買ってきた友達がいた。
そのプレゼントを渡して、クラス代表が先生にお礼の言葉を述べる。

「5日間で各課題のポイント、解き方のヒントばかりでなく、深い愛で私達を見守ってくれた先生、先生が私達に与えてくれたご恩を忘れることはありません。私達が今先生に言えることはたった一つ・・・。」
そして、早朝に打ち合わせていた通り、全員で声を合わせて言った。
「ラウ・ラック・アジャーン コープクンカ(先生のことが大好きです。ありがとうございました)」

研修合宿を毎回担当していれば、生徒達との別れにも慣れているはずなのに、なんと先生は感激して泣いてくれた。
先生の涙を見て、生徒達も思わず涙。

なんだかとても心に残る、そして感動的な最後の授業だった。

Posted by てんも at 00時17分   パーマリンク

2009年11月30日(月)

研修4日目 [スコータイ大学]

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研修4日目

とうとう4日目の朝。明日の午後には家に帰れるのだ。
「5日間て、本当にあっという間だったね」
朝食の時間にルームメイトと語り合う。

そこに現役の公認会計士が加わった。この方は男として生まれて来たけれど中身は女性で、外観は男なんだけど顔には白粉をはたいていた。
公認会計士をしているその方は、今回の合宿ではマネジメントを専攻していた。研修参加者の中にはこのように、2枚目、3枚目の修了証書を求めて勉強を続けている人も珍しくなかった。

「5日間なんて、長すぎる!!」と叫んでいた初日には想像もできなかったことだけれど、5日間の合宿は本当にあっという間だった。

あまりに充実して、あまりに中身の濃い5日間だった。
通常の生活をしていれば、1ヶ月以上かかるであろう課題を、5日間で仲間と助け合いながら完成させていったのだ。

課題はそれぞれがとても良くできていて、テキストを片手に問題を解いていくうちに重要ポイントが理解でき、身についていく、という構成になっていた。

4つ目の課題の発表を無事終え、残るは最後の課題。
いつものようにグループ替えをして、新しい友達と机を囲む。

最後の課題は電卓を必要としなかった。会計士の職業倫理に関する問題。
簡単なようでいて、とても難しい課題だった。
それぞれの意見を出し合い、レポート用紙にまとめて提出した。

夕食後はお待ちかねの専攻ごとに出し物をするパーティ。
専門の勉強を全て終えた開放感から、みんなの顔が明るく輝いている。

ホールで司会者が言った。
「うーん。今日は会計専攻の皆さんの顔が実にイキイキしていますね」
会計専攻の人はこの発言に大笑い。

たしかに、研修合宿でここまで目を充血させ、時には吐き気や頭痛と闘いながら、気力の限界まで課題に取り組んでいたのは会計専攻だけだった。
観光やマネジメント、建築を専攻している人達は、もっと楽しげに、研修に参加していたのだ。

参加者中唯一の外国人ということで、私も出し物に少しだけ参加。記念品をもらった。
その後、打ち上げを兼ねたパーティは深夜まで続いたらしい。
もちろん、タイの大学のキャンパス内なので、飲酒は厳禁。それでもみんなカラオケその他で盛り上がっていた。

私は自分の出番を終えると早めに部屋に戻った。いよいよ明日は自宅に戻る日。カラオケより荷造りをしたい。
ルームメイトもみんな部屋に戻っていた。

この日、研修最後の夜に初めて、4人のルームメイトでゆっくり話をすることができた。ベッドに横になりながら、のんびりリラックスしておしゃべり。ゆったりした、愛おしい時間が流れた。

Posted by てんも at 00時09分   パーマリンク

2009年11月29日(日)

3つ目の課題と4つ目の課題 [スコータイ大学]

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3つ目の課題

3つ目の課題には3日目の午後3時間が与えられた。

大量割引きの求めに応じるべきか否かを分析したり、新しい機械を導入することの妥当性を分析したりする内容だった。

財務諸表から変動費を求め、どの程度の割引までなら損失を出さずに応じることができるかを求めたり、現在価値を使って設備投資について分析したりした。

またまたグループ替えをしてメンバーを入れ替えての3つ目の課題。この頃にはクラスの友達の顔は全て覚え、仲良く課題に取り組むことができた。

またこの頃から、これほど中身の濃い課題に取り組むには2泊3日の日程ではやはり短かすぎる。4泊5日は妥当な長さなのかもしれない、という風に気持ちが変わってきた。

外界から切り離され、3食+おやつ+軽食を用意してもらい、好きなだけ食べることができて、部屋の掃除もしてもらえる。課題に一心不乱に取り組むことができる環境なんて、通常の生活では考えられない。ある意味恵まれた環境だ。

合宿も後半にさしかかった。残るはあと2つ。4日目の午前中までかかる大きな課題と、4日目の午後の時間を利用する5つ目の課題。

これは本当になんとかなりそうだ。このまま5日間乗り切れるかもしれない。
夕食を終えて教室に戻ると、4つ目の課題が配られた。管理会計だ。

原材料費や光熱費を仕掛品や間接製造費に仕訳していく。なんともややこしく、複雑な作業のイメージがあるけれど、テキストをめくりながら取引を一つずつ仕訳していく。
その作業を繰り返しているうちに、私は会計の魅力に改めて気づいた。
どんな取引も、全てが仕訳で表現することができる。それはどこか少し翻訳作業にも似ていて、やりがいのある作業だった。

4つ目の課題は、先生が項目を減らしてくれたりしたので少し余裕を持てた。そこでみんなで少し早めに部屋に戻ることに。時計を見ると11時。
「今日は早く終わってよかったね」
みんなで笑顔で教室を出た。

2日前には、11時まで教室にいてフラフラになっていたというのに、今は11時に終わったことを「意外に早く終わった」と喜んでいる自分がいる。
短期間でずいぶんと自分の気持ちが変わったことがおかしかった。

Posted by てんも at 00時29分   パーマリンク

2009年11月28日(土)

研修3日目 [スコータイ大学]

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研修3日目

2日目の夜は、寝室に戻るのは遅くなったものの、気持ち的にはとても楽になっていたので、眠ることができた。

朝食のときに2日連続で眠れなかったという友達に会う。お互い一目で、相手が眠れたということが分かった。
顔色が明るくなっていたのだ。

前日の課題について、近々上場予定の会社で「アカウンティン・グマネージャー」をしているルームメイトに聞いてみると、彼女のグループはすでに課題の山場を超えて、あとはデータを損益計算書と貸借対照表に移すだけ、ということだった。
前日の夜もかなり早い時間に寝室に戻ったらしい。

私達のグループは、残念ながら前日の夜中の1時を過ぎても清算表の借方と貸方の数字が一致しない、という問題を解決できないでいた。

そのことを伝えると、アカウンティング・マネージャーは言った。
「なんで合わないの?」
それはこっちが聞きたいのである。

私達のやり方があまりうまいやり方でないのは明らかだった。一番会計に自信のある人がリーダーになって仕訳帳にデータを記入していく。周囲の人がそのデータをチェックしながら、勘定科目帳に入力していく。
同時並行で作業を行ってはいたものの、清算表で数字が合わないと、それがどこのミスなのか一つずつ確認するしかなかった。

ところがアカウンティング・マネージャーがいるグループはこれとは全く異なる方法で作業を進めていた。
マネージャーがリーダーとなって、経験が不足する若手に手分けして仕訳帳を作成させる。分からない項目についてはもちろん、リーダーがアドバイスする。

仕訳帳の作成が終わったとき、リーダーは若手に先に食事に行かせ、自分1人で仕訳を元にT字勘定を作成したのだという。
こうして、左右の数字が一致することを確認した後、今度は食事から戻った若手にT字勘定を参考にしながら精算書その他を作成するように命じた。

私達のグループのリーダーは、普段会社でも偉い人の下について1人でその部門の会計を担当しているそうだ。一方でアカウンティング・マネージャーは普段から複数の部下の仕事をまとめている。この経験の差が、作業の進め方に現れていた。

仕事の進め方に多少の問題があったとしても、私達のグループも6人でデータをにらみ続け、最終的には精算書の数字を一致させることができた。
その後決算整理仕訳を行い、貸借対照表その他を作成するのだが、結局期限までに全ての書類を用意することはできなかった。
先生は、「数字は一致しましたね?」と確認した。多分それがこの課題にパスするための最低条件だったのだと思う。

先生は「課題の評価は、最後の数字だけを見るわけではありません。回答を導きだすまでの考え方、手順も評価の対象になるんですよ」
と私達を励ましてくれた。

Posted by てんも at 00時41分   パーマリンク

2009年11月27日(金)

2つ目の課題 [スコータイ大学]

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2つ目の課題

無事に1つ目の課題を終えて昼食を終えると、次に2つ目の課題が配布された。2つ目の課題は発表の必要がない。だからといって楽な課題かというと、実は5つの中で作業量が一番多い課題だった。

時間割では2つ目の課題は2日目の午後にスタートし、締め切りが3日目の正午。つまり、24時間以内に回答を出さなくてはならない。

2つ目の課題は、会計の一連の作業を最初から最後まで通して行うことだった。課題に表示されている取引を手がかりに勘定科目一覧表を作るところから始めて、仕訳帳、総勘定元帳、10桁の清算表、損益計算書、貸借対照表を作る、というものだった。

専門学校で会計を勉強してきた友達と比べて、圧倒的に経験が不足している私だったが、仕訳だけは、日本語、タイ語で何度も練習していたので、この課題はずいぶん積極的に参加することができた。

さらに、初日からずっとタイ語の洪水の中にいて、頭のスイッチがタイ語に切り替わったらしかった。タイ語が普段以上にスムーズに口から出て来た。

自宅で学習しているときは自分のペースでできたので、タイ語のテキストを読みながらもメモは日本語だった。試験前に見直しをするとき、メモがタイ語の場合と日本語の場合では、確認にかかる時間が全く違うのだ。
日本語なら一瞬で文章全体を頭に入れることが出来る。タイ語だと文全体を一瞬でとらえることはできない。
だから、メモは全て日本語で作成していた。

つまり、私はタイ語で会計のテキストを勉強するときも
「この問題では、パシースーをデビット側に入れて・・・」と言うように、頭の中では日本語で考えていたのだ。

これでは、それでなくても早口の会計専攻の皆さんの議論に参加できる訳がない。

それがどうやら、2日目の時点で、「タイ語で考える」ように脳が対応したらしい。

前日からの寝不足で目は真っ赤に充血していたけれど、気持ちはとても楽だった。友達と議論しながら課題に集中して取り組めることが、私の気分を高揚させた。

新しい課題を配布する度に席替えが行われ、2つ目の課題は1つ目の課題とは異なるメンバーで取り組んだ。
その中の1人、クラスで最年長の50代の女性は、
「昨日の夜、眠れなかった・・・」
と言う私に、
「私もよ!私は前日から続けて、もう2日間、一睡もしてないの」
と言った。

彼女は合宿の前日から緊張で眠れなかったそうだ。「眠れない仲間」を発見して、私の気持ちはさらに軽くなった。その日の夕方、合宿に来てから始めて、私は携帯電話の電源を入れた。もう、家族の声を聞いても大丈夫。泣き出したり家に帰りたくなったりしないで、普通に家族と話すことができる。そう思った。

2日目からは、みんなで時間を気にして、3時のおやつと8時の軽食の時間には食堂に降りていくようにした。10分程度でも休憩すると気分転換になるし、少しは体を動かせるからだ。

「8時の軽食」とは、真夜中まで課題に取り組む学生のために、大学側が用意してくれる軽食。軽食といっても、ラーメンだったり焼きそばだったり、お腹にしっかりたまるものだった。

普段9時半から10時に寝る私は、8時以降に何かを食べる習慣がなかったので、慣れない時間に油たっぷりのご飯を食べると胃がおかしくなるのじゃないか、と少し心配だったけれど、脳を働かせるためには炭水化物は必要なのだ、と自分に言い聞かせて食べられるだけ食べるようにした。
幸い、5日間の合宿中、胃痛は起こらなかった。

2日目は、帳簿の数字がなかなか合わなくて、気づいたら時計の針が1時を過ぎていた。作業の手は休めずに、冗談を言い合ったり笑ったりして、真夜中までみんな笑顔で作業した。11時を過ぎた頃、友達の1人が行った。
「もうダメ。吐きそう。」
グループのリーダーとして一番重要な作業を担当していた彼女は、数字が合わないプレッシャーからか、昨日の私と同じ症状が出ていた。顔色も悪い。それでも彼女は電卓を離そうとしない。「ここだけ終わらせておけば、明日楽だから・・・」

数字が合わないと、イライラしたり「もうヤダ!」と投げ出したりしたくなったりするものだけれど、参加者の中で途中で課題を投げ出した人はいなかった。
疲れ目による充血で、目を真っ赤にしながら、顔に疲労の色は隠せなくても、「専門学校時代を思い出すわ〜。よくこうやって、夜中まで課題をやったっけ」と明るい口調で話しながら電卓を打ち続ける友達を見て、会計専攻の人々は、一般的なタイ人のイメージとはかけ離れているのだ、ということを知った。

彼女たちに「マイペンライ」という言葉はなかった。
責任感を持って役割分担をこなす彼女たちを、本当にすごいと思った。

これ以上遅くまで起きていると次の課題にも影響が出てしまう。ということで、その日は1時過ぎに寝室に戻った。
ルームメイトの1人は、まだ戻っていなかった。

Posted by てんも at 00時23分   パーマリンク

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プロフィール

タイ語翻訳者

てんも

タイ国在住のタイ語翻訳者。
BOI、契約書、法律文書などの重要文書を中心としたタイ語翻訳を行っています。
連絡先:
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